プロフィール
矢内理絵子
1980年1月10日生まれ、埼玉県行田市出身。1990年関根茂九段門下として、女流育成会入会。1993年4月1日女流2級プロ棋士となる。千葉涼子女流王将、石橋幸緒女流四段らとともに、将棋界の女流若手三強の一人に数えられる実力の持ち主。2006年2月女流名人位獲得。

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2007年4月 9日 (月)
激闘!レディースオープントーナメント2006

 みなさん、お久しぶりです。
 すっかりご無沙汰してしまいまして……。
 今回からは、年明けから始まったレディースオープントーナメント2006、そしてつい先日幕を閉じた第33期女流名人位戦5番勝負の模様をお届けいたします。

 *レディースオープントーナメント2006*
 ~第1局・1月11日~
 1999年以来の決勝進出。絶対に決めるぞ!と燃えていました。対する相手は里見香奈女流1級、対局姿はセーラー服、まだあどけなさが残る中学3年生です。
 でもこの里見1級、タダモノではありません。
 女流棋界の将来を嘱望されている最有力若手棋士です。
 昨年対戦したときには負かされており、今回は何としてでも負けられない、勝たなくてはいけない相手だと思っていました。
Lot_2 さて、対局室に入ると……今までにない報道陣の数……。
 もちろん私を取材するために来ているのではないことはわかっています。
 そして対局室に流れる空気がいつもと違う。
 今まで私が挑戦者の立場だったときには、みんなが背中を後押ししてくれているような雰囲気を感じていましたが、今回ばかりは当然逆です。
 この光景を見た瞬間、空気を感じた瞬間、平常心でなくなったのかもしれません。
 気合はプレッシャーという別物に形を変え、私自身の敵となっていました。
 こうなってはいけません。
 気持ちも消極的になってしまい、肝心な局面でも勝負することを恐れ、まったくもって酷い内容の将棋を指してしまいました。
 完敗です。
 里見さんは長時間の集中からか顔を真っ赤に上気させ、とても嬉しそうでした。
 逆に私は……負けたことももちろん残念でしたが、それ以上に自分の気持ちの弱さにショックを受けました。
 またその夜、里見さんを取材していたNHKニュースでこの対局の模様も流れました。
 正直、見たくなかったですけど、見てよかったのかもしれません。
 インタビューを受けていた里見さんの一言でハッとしました。
 正確な言葉は忘れてしまいましたが、
  「負けない、という気持ちは自分が1番強く持っている」
 というような意味合いのことを言われていました。
 目が覚めたような思いでした。
  “負けられない”、“勝たなくては”ではなく私も“負けない”と、もっともっと強く思って戦おうと気持ちを入れ替えました。

 ~第2局・1月25日~
 3番勝負ですからカド番、もう後がありません。
 でも、この棋戦はトーナメントですから、決勝以前のトーナメント戦と同じく後がない状態に戻っただけのこと。
 後先考えずに、目の前の一番に集中するのみです、“負けない”気持ちを強く持って……。
Lot 報道陣は1局目よりかなり増えました。
 当然ですね、中学生棋士が優勝するかもしれないのですから。
 でも、この報道陣を見ても、もう心に波が立つことはありません。
 大丈夫。
 自分の将棋が指せる。
 とはいえ、かなりのプレッシャーを感じ、本当はブルブルでしたけど(笑)。
 序中盤はわりと思い通りに指し進められたと思いますが、ヒタヒタと背後に迫られていることはイヤでも感じます。
 ただ、善悪は抜きにして、そんな忙しい局面と精神状態の中、勝ち急がなかったことが勝因だったのではないかと思います。
 この一勝は本当にホッとしました。第1局に負けてから生きた心地がしませんでしたが、文字通り生き返った気分でした。
 そして、里見さんが共同記者会見をしているのを横目に帰路につきました。
 久しぶりによく眠れたような気がします。

 ~第3局・2月22日~
 2月から女流名人位戦が始まったので、日程にだいぶ間隔が開きました。
 通常、1勝1敗という微妙なところで1ヵ月も開くのは嫌なものですが、重要な対局が続いていたのでかえって緊張感が保てていい状態にあったような気がします。
Lot_1 朝、対局室に入り報道陣を見る。
 もう慣れたもんね。
 しかし……。
 これは凄過ぎる。
 というか、里見さんを追いかけているカメラマンがほとんど私の席にかぶっているのですが……。
 それより何より、あまりの報道陣の多さで、私、自分の席に辿り着ける道順がわからないのですが……。
 これだけのマスコミを背に戦うのは初めての経験です。
 緊張と楽しみとでゾクゾクしました。
 最終局ということで改めて振り駒が行われ、第1局に続き再び後手になりました。
 ある程度、作戦は考えてありました。
 それが今回に限ってはうまくいったようで、私のわずかばかりの経験値が活きる展開になりました。
 お互い我慢の展開だったので、里見さんの若さが出たというところでしょうか。
 しかしそれは良いことです。
 積極的に局面を打開する、その姿勢はごく自然であり、これほど大きな舞台でもその指し手を選べる度胸は素晴らしいと思いました。
 結果、2勝1敗で優勝することができ、何とか女流名人としての役目を果たせ、そして自分との戦いに勝つことができました。
 よかった、よかった……。

Lot_3 この3番勝負は私にとっても素晴らしい経験となりました。
 逆風の中で戦うことの大変さもよくわかりました。
 でも、大変だったのは私だけではないはずです。
 里見さんも想像以上に注目され、戸惑うこともあったでしょう。
 いろいろな思いもあったでしょうし、彼女は彼女なりのプレッシャーを感じていたと思います。
 しかし、それほどのプレッシャーがかかる勝負ができる棋士が何人いるのでしょう?
 そんな勝負ができてこそ棋士冥利に尽きる、と思います。
 里見さんの登場で、女流棋界は一気に面白くなりました(指してる方は大変だけど)。
 今後ももう少し続くであろう、女流戦国時代。
 要注目です!!

2007年2月20日 (火)
第2回さいたま輝き萩野吟子賞

Jushou 先日「第2回さいたま輝き荻野吟子賞」というものを受賞いたしました。
 はじめ、市役所の方からお話を聞いたときは「???」という感じで何のことだかさっぱりわからなかったのですが、どうやら私の知らないところで、行田市が推薦してくださっていたようです。
 よくわからないけれど、お蔭様で受賞させていただきました。有り難うございます。

 荻野吟子さんという方は1851年に現熊谷市(行田市のお隣です)に生まれ、医術開業試験が女性に認められていなかったこの時代に、制度改正に奔走するなど数々の困難を克服し、1885年に医術開業試験に合格、日本で最初の公認女性医師となりました。そして開業後は、医療・婦人解放運動等に活躍し、女性の地位向上や衛生知識の普及にも大きく貢献されたそうです。
 埼玉県では日本近代資本主義・近代産業界の父である渋沢栄一、国書の一大叢書である『群書類従』を編集した塙保己一(はなわほきいち)、そして荻野吟子が「三大偉人」ということで、それぞれに賞があり、今回は男女共同参画の観点から「荻野吟子賞」をいただきました。
 将棋界以外での表彰を受けるのはたぶん初めてなので、とても光栄なことであり、かなり嬉しかったです♪

Shuugou 授賞式当日。
 市役所の方たちと会場入り。
 ガラにもなくドキドキしてしまいました。
 タイトル戦の表彰式より、緊張していたかもしれません(笑)。
 県知事から賞状と記念品をいただき、最後は受賞者全員での記念写真撮影。
 思いがけず、知事のお隣になってしまいました(場所が決まっていたため)。

  「将棋は何手くらい先まで読むんですか?」(知事)
  「そうですね~、100手以上は読んでいますよ。幹の部分となる本線と枝分かれした変化も読んでますからね」(私)

 なんて会話を交わしつつ、なぜか握手を3回くらいして、無事、授賞式も終わりました。
 同じ受賞者の女性陣が、「知事はダンディーで素敵ねぇ~」とお話しされていました☆
 うんうん、確かに知事の手は温かかったデス(まったく関係ないか…笑)。

 今回の受賞を、ひとつの励みに、今後も少しでも将棋を広く、多くの方に知っていただけるように頑張って活動していきたいと思います。

2007年1月 9日 (火)
明けましておめでとうございます♪

 明けましておめでとうございます。
 本年も、どうぞ宜しくお願い致します。

Softcream いつの間にか、2007年になってしまいました。
 時間が過ぎるのは本当に早いものです。
 みなさんの2006年はどんな年でしたか?
 私は一言でいうと……楽しい一年でした♪
 さっそく簡単に振り返ってみたいと思います。

☆序盤(1月~4月)☆
 なんと言っても「女流名人位戦」です。
 ブログにも書かせていただきましたし、インタビュー企画までしていただきましたが、本当に、本当に嬉しかったです。
 このシリーズを通して、勝負に大切な“魂”を新たに教えられ、経験したように思います。
 生活も一変し、新しい世界の幕開けって感じです♪

☆中盤(5月~8月)☆
 女流名人になったこともあり、たくさん取材を受けました。記者の方々が将棋界に詳しい人、あまり詳しくない人、様々でしたが、私がタイトルを獲ったことの受け取り方も十人十色だったので、とても新鮮でした。
 “すごい!”と褒め称えてくれる人、はたまた逆に無関心な人(笑)、いろんな方にお話をさせていただきましたが、共通して感じたことは、「もっと将棋のことを、将棋界のことを広く知ってもらわないといけない!」ということです。まだまだ認知度は低いと改めて痛感しました。
Meijini_1 またこの頃は例年と違って対局が少なく、地方に行くお仕事がだいぶ増えました。
 青森から愛知に掛け持ちで移動してみたり、結構(私なりに)ハードに動きました。
 夏の将棋まつりもあちこちに顔を出させていただきました。
 すると行く先々で同じ顔ぶれのファンの皆さんが……(笑)。
 いつもご来場、ありがとうございます☆
 今までにないくらい、たくさんの人たちとの出会いがあり、いっぱいパワーをいただきました!

☆終盤(9月~12月)☆
 なんとか二冠目のタイトルを狙おうと頑張りましたが、挑戦者決定戦で残念ながら散りました。
 内容も悪かったため非常に残念(涙)。
 いつもだとそこから調子が下降してしまうのですが、今期は切り替えがうまくいったようで、その後は別の棋戦にシフトチェンジ。
 勝ち上がることができました。
 今期、私が対局している棋戦はすべてトーナメント。負ければそこで終わりです。
 そんな状況のおかげか、いい意味で緊張感を保てたようです。やっぱり勝負はハートです!
 そして後半に入ると……女流棋士の新法人設立についての動きが活発になり、今まで体験したことがないくらい忙しくなりました。
 私には、とてもじゃないけれど会社勤めはできないな……と、心底実感しました。
 でも、そういった直接対局に関する作業ではないにしても、勉強になることは多いですし、何より、女流棋界の将来を考えながらのお仕事ですから、心は明るいものです。
 今後もみんなで力を合わせて乗り切りたいと思っています。

Yauchi3 このように振り返ってみると、2006年はなかなか充実していたかな、と思います。
 最大の反省点は、このブログの更新をサボってしまったことでしょうか(汗)。

 新しい年がスタートしたばかりですが、さっそく予定は詰まっています。
 「レディースオープントーナメント」の決勝戦に、「女流名人位戦」の防衛戦。
 その合間に他の対局もありますし、対局以外のお仕事にも行かせていただきます。

 注目される対局が指せる棋士としての喜び、矢内をご指名いただきお仕事ができる有難さを噛み締め、2007年も元気いっぱい頑張りたいと思います!
 (プライベートも充実させたいなぁ……)
 皆さんぜひ、応援してくださいね♪

2006年11月21日 (火)
世界でたったひとつの駒

 将棋は戦いのゲームです。対局者が指揮官となり盤上で熱く、激しい戦いが繰り広げられます。
 そして、私たち対局者の代わりに戦ってくれているのが『駒』です。

 いつも対局前、心の中で駒たちに「今日一日お世話になります。一緒に頑張ろうね。よろしくね」と思いながら並べています。
 自分としては一枚一枚に魂を込めているつもりです。
 そして、勝負が終われば「お疲れ様。私の代わりに戦ってくれて有り難う」という気持ちで駒箱にしまっています。
 そのくらい『駒』は大切なものなのです。

Koma みなさんもどこかで、目にしたことはあるのではないでしょうか。デパートなどで売っているマグネットタイプの小さなもの、裏返すと赤い字で書かれているもの、プラスチックでできているもの……。
 たくさんの種類がある中で、私たち棋士が対局に使うものは「盛り上げ駒」と言ってちょっと高級なものなんです。これは黄楊(つげ)の駒木地に字を彫ったあと、サビ漆で彫り跡を埋め、さらに筆で漆を盛って駒字を書いたものです。
 普通に買えば何十万とすることでしょう!
 一種の芸術品です。

 先日、そういった駒の作り方や書体など、『駒』に関する様々なことがまとめられた一冊の本が出版されました。
 その出版記念の将棋大会があり、私も指導対局で参加させていただいたのですが……なんとなんと、著者である駒師さんが駒を作ってプレゼントしてくださったのです。それも高級な「盛り上げ駒」を。
 しかも、王将の裏には“女流名人”、玉将の裏には“理絵子”の文字がある、世界でたったひとつの女流名人駒です!
 さらに「ずっと女流名人でいてくださいね♪」という笑顔付き(笑)。
 私の素敵な宝物になりました。

 良い盤や駒を持って勉強していると強くなれるような気がします。
 もっとも今回いただいた駒は、とても素晴らしいので、もったいなくて使えず、毎日のように眺めているだけですが(笑)。

 女流名人になって、いつの間にやら9ヵ月。
 そろそろ挑戦者も決まります。
 誰が挑戦してくるのか、とーっても気になる季節ですが、この女流名人駒を心強いお守りと思って、防衛戦に向けて頑張りたいと思います。

2006年10月13日 (金)
達人戦

 先日、将棋界唯一のシニア戦である「富士通杯達人戦」の決勝戦が有楽町マリオンにて公開対局で行われました。
 そして私はその対局の大盤解説会の聞き手として参加させていただきました。
 「達人戦」というのは40歳以上、そして八段以上の棋士の中から、更に過去の実績により選抜されて出場棋士が決められています。
 言わば選ばれた達人たちの頂点を決める戦いなのです。

Tatsujin_taikyoku_1 今年の決勝顔合わせは加藤一二三九段対谷川浩司九段。
 加藤九段といえば、情熱と信念のファイターという感じ。
 戦型にもこだわりがあるように思います。
 また「勝つ」ということにとても一途です。
 谷川九段は洗練されたスマートさ、そしてやはり「光速の寄せ」です。
 今年の4月から行われていた名人戦の挑戦者で棋界のトップ棋士であることからも、「達人」という呼び名には、少し違和感があります。
 しかし「達人戦」2連覇中。
 どこまで連覇記録が伸びるか注目です。
 以上が私の本当に個人的な見方です(笑)。

 一体どんな戦いになるのでしょう?

Hifumikato まず、お二人の挨拶が終わり、盤の前に座ろうとした瞬間……座布団を90度回す加藤九段。
 しっくりこないのか、その後もクルッ、クルッ、クルッ……。
 結局元の向きで納まり着座されたと思ったら、今度は駒台をクルクル。
 対局するのにベストな環境を作ろうとする、そんな加藤九段を見ることができるのも公開対局の醍醐味です。
 対局が始まると、すぐ脇で解説をしています。
 きっと聞こえていると思うのですが、対局者の集中力は凄まじく、前傾姿勢で迫力満点の加藤九段、背筋がピシッと伸びて悠然とした佇まいの谷川九段の白熱した攻防戦となりました。
 そして、お互いに手筋を駆使し、“一手指した方が良く見える”激戦を制したのは谷川九段。これで3連覇となりました。

Kojitanigawa 優勝を重ねるということは大変なことです。
 一発勝負のトーナメント戦なら尚のこと。
 達人の「技」、トップ棋士の精神力に「心」を学び、真似をしながら少しずつでも自分のものにできるようにしたいものです。

 女流棋戦では最近20歳以下の若手だけが出場できるトーナメント戦ができました。
 女流にも「達人戦」なんてどうでしょう?
 あっ、でも女流で○○歳以上なんて決めたら……。
 恐いから考えるのやめようっと(笑)。

(写真は上から、
 達人戦 対局写真 
 加藤一二三九段 「囲碁・将棋チャンネル」の取材
 谷川浩司九段 懇親会で、優勝者としての挨拶)