結婚生活。
私にとっては、一般の女性が夢に見るような華やかで幸せな結婚生活ではなく、「嫌がらせ」や人の悪意に苦しむ結婚生活だった。
「どうか神様、私をこの世から葬り去ってください」
毎日そう願っていた。私の頭の中は、いつもそのことばかり。それほど、朝から次の日の朝までの24時間が、自分ではない第三者に支配され、何が起きるかわからない恐怖と苦痛の中にあった。
警察も24時間守ってくれるわけもなく、心の奥底からやがては身体に至るまで、病魔はその姿を現すようになる。
過度のストレスからノイローゼ状態になり、それだけではなく言語障害も出てきていた。
「つらい、つらい」
こんな地獄から脱するには……。
地獄のほうがまだこの現実より楽かもしれないと思い、地獄に憧れの気持ちを抱くようにさえなった。
でも、自ら命を絶つことはできない。
「神様から与えられた命を自ら消滅させることは、この世の使命をまっとうできずに逃げ出すことだ」
「きっとこんな私でも、神に生かされているということは、使命がまだ何か残っているのだろう」
「それならば、どんなことが起きようと、命を絶たれるその日まで生きるしかない」
そうかたくなに考えていた。
だけれどもその一方、「何で自分だけこんな目に遭うのか?」と別の声が聞こえる。
自分で、自分の選んだその人生を恨んだ。
それでも、「自分自身で何とかしなくてはいけない。ここから逃げてはいけない。彼(夫)のことを守って彼の夢を実現させなくてはいけない」と、来る日も来る日も、そう自分に言い聞かせた。彼も日々このことに心を痛めて辛い思いをしていた。だが、彼には栄冠を手に入れることに集中して欲しいという私自身の気持ちがそこに強くあった。たとえば、子供をお受験戦争で勝利してもらいたい母親の気持ちといったらわかりやすいだろうか……。
私はアオムシからサナギになった唯一の友を見て、いつも思っていた。
「大丈夫! いつかこのサナギが美しい蝶となって、大勢の仲間と一緒に悪いやつらをやっつけてくれるから」
現実離れした空想だった。
だが、私にはただそれにすがるしか、生きるすべがなかった。
そんなある日、不思議な夢を見た。
あの「ムゴムゴサナギ」が、美しい蝶に変化しているのだ。そして私を乗せて、夢のような(?)場所に連れていってくれた。
そこは、果てしなく広がる美しい大草原、色とりどりの鮮やかな花畑が広がっている。私を乗せた蝶の仲間たちが自由に飛び回っている。まさにワンダーランドのような場所だ。
「なんて美しいのだろう」
「なんて自由なのだろう」
「こんな世界で生きたい」
夢の中の私は、彼らと同じように背に大きな羽を背負い、神々しい世界を自由に飛び回っていた。そして言語障害を患っているはずの私が仲間たちと楽しそうに話をしている。
何の縛りもない世界だ。いつしか地獄ではなく、そんな自由で美しい世界に憧れるようになった。
「私にも、こんな未来が待っているのだろうか? 早くそこにいきたい」
久しぶりに私の身体の中は、幸せで満タンになった。いつまでもいつまでも、その夢が続けばよかったのに……。その夢がさめなければ、彼が私の手を放すことはなかったかもしれないのに……。
目が覚めた私の目の前には、まだワンダーランドを知らず土の上でムゴムゴ動いているサナギがいた。



