プロフィール
鶴見憲道
1967年4月29日生まれ。東京都出身。調理師専門学校を卒業後、紀尾井町『福田家』にて板前として修業。1989年、銀座のバーにてバーマンとなり、シングルモルトと出会う。1991年、池袋にBAR THE CRANEをオープン。

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2006年7月28日 (金)
最終回・老夫婦との縁で出会ったボトル

Edinburgh_1  スコットランドの旅も、ぐるりとひとまわり2週間。エディンバラへ帰ってきた2人は日本で待つお客様たちへのお土産を買うため、メインストリートをあちらこちらとうろうろしていたのですが、日本のように目新しいものがなかなか見つからず、やたら時間が経つばかり……。
 気がつくともうすでにお昼。少々小腹もすいてきたので『スープ&パンで1ポンド』と書いてあるパブに入ってみますと、店内は超満員。きょろきょろと席を探していると、店内の奥の方で手を上げて呼んでいる老夫婦が目に入ったのです。
 彼らは「相席をしても構わないよ」と、気軽に言ってくれたので、私たちもご好意に甘えさせていただいたのですが、この縁がとんでもない出来事につながるとは、私もそのとき全く思っていませんでした。
 
Old_inside_of_a_store_photo_4  席へつくなり、ご主人のほうが私たちに「スコットランドへは何をしにきたんだ?」と質問してきました。やはり日本人(アジア人)がエディンバラをうろうろするのが珍しかったのでしょう。私はどこの人にも簡単にわかるように、BAR THE CRANE店内とその当時コレクションしていたシングルモルトの写真をファイルにして持ち歩いていたので、日本の東京でBARをやっていることを告げました。
 すると、その老夫婦が大きな目を見開き、私の写真をしげしげと見入ったのです。そして、ご主人が「私はTHE SCOTCH MALT WHISKY SOCIETYのメンバーなんだよ。キミは今、このパブにいるよりも、そのソサエティのテイスティングルームに行くことを勧めるよ」と言い放ったのです。
 私はその『ソサエティ』がなんたるかはその時一切知らなかったのですが、その彼を信用して、彼がフリーハンドで書いてくれた地図を頼りに『ソサエティ』なるクラブへ出かけていきました。
 
Society_1  紹介されて訪れた『ソサエティ』で、私は2度目のカミナリに打たれ、あるボトルに惚れこみました。そして今現在でも、その当時のボトルが所狭しとBAR THE CRANEに並んでいます。
 そのボトルが何であるかはBAR THE CRANEにて……。

 短い期間でしたが、私のブログを読んでいただきありがとうございました。今回をもってこのブログを締めさせていただくこととなりました。またこのような機会がありましたら、ぜひ書かせていただきたいと思っています。つたない文章ばかりだったのですが、楽しんでもらえましたでしょうか。またこのようなブログで皆様と出会える日を楽しみにしています。それでは失礼。

2006年7月14日 (金)
無理矢理キャンベルタウンへ

 前々回お話したアイレイ島での話の続きをいたしましょう。
 事故のおかげでスケジュールが大きく乱れることになりました。
アイレイ島からキャンベルタウンへ行く予定だったのですが、一度グラスゴー空港へ行き、レンタカーを交換しなくてはいけないことになりました。
 フェリー乗り場からグラスゴーまでどんなに早く行ったとしても4時間はかかるのですが……。
 そして、その後はどうするのか? そのまま、キャンベルタウンへ強行するか? そんなことをグラスゴーへ向かうピックアップカーの中でひたすら考えていました。

Spring_bank_1  グラスゴー空港へ着いたのは夕方の5時ごろ。レンタカーカウンターで事故状況の確認をし、カウンターレディーが取り替えた車のキーをにっこりと気軽に渡してくれました。

 イギリスでは保険をしっかりかけておくことをお勧めします。
 私は、事故後、お金など一切かからずに救われた、数少ない人の中の一人でした。イギリスでは、人身事故の場合でも「クリア・アクシデント」道路において、車優先の所へ人が飛び出して事故にあった時、加害者は車でなくひかれた人になってしまう、といったしっかりとした交通ルールがあります。
 車道は車、歩道は人と公平なルールが決められていて、とてもわかりやすいと、私は思いました。

Storehouse  話が少し脱線しましたが、私はやはりこの旅でどうしてもキャンベルタウンの蒸溜所・スプリングバンクへ行きたかったのです。しかし、なんとも運が無く、その夜はものすごく天気が悪く、台風並みの低気圧が来ていました。道のいたる所にある大きな水溜りと、降りしきるスコールのおかげでゆっくり運転……。
 キャンベルタウンに着いた時にはすでに0時をまわっていました……。宿はもうすっかり閉まり、静まりかえった町の中で助けを求めることができるのは警察署のみ。
 恐る恐るたずねてみると、署員の方は気軽に宿を案内してくれました。親切なスコットランドの人達には、なにからなにまでお世話になりっぱなしです……。
 
Shipment_preparation  そして翌日、私の店で守り神のように置かれることとなり、自信を持ってお勧めしている『スプリングバンクの名酒たち』を手に入れました。強行したことは無謀でしたが、キャンベルタウンに訪れなければ、決して出会えなかった酒たち(ウエストハイランド、スプリングバンクホワイトラベル、ラムカスク)。その酒たちには今でも最大の感謝をしていると同時に、この時にお世話になった人々にはそれ以上の感謝を……、今も忘れはしないのです……。

2006年6月30日 (金)
ひとつ上行く、大人のカクテル

 あっという間にもう7月。1年の半分が過ぎてしまいました。そしてうだるような湿度と暑さの毎日がやってきます。そんな時に一時の暑さしのぎになるような、大人っぽい夏のカクテルをご紹介します。

 まずはジンベースで『ネグローニ』から。レシピはジン30cc 、カンパリ15cc、 ヴェルモット15ccをロックグラスに直接注ぎ、よく混ぜてからグラスにオレンジを飾ります。このカクテルはイタリアの「カミーロ・ネグローニ伯爵」の名から採られたカクテルで伯爵が好んで飲んでいたそうです。BAR THE CRANEではベースのジンを強くして、甘さを控えたものをお客様にお出ししています。オレンジの絞り方次第で自分好みの味にアレンジできる、おもしろいカクテルです。
Sol_cubano  ラムベースでは『ソル・クバーノ』がオススメです。レシピはラム30cc 、グレープフルーツジュース60cc をタンブラーに注ぎ、トニックウォーターで満たします。サントリー・トロピカル・カクテル・コンテストでグランプリを取った木村義久氏の作。夏の暑さを癒してくれる、さっぱりとした味わいと美しい色合いがGood!な、素晴らしい出来栄えのカクテルです。
Negroni_and_red_viking  次はアクアビットをベースにした『レッド・バイキング』。1958年、コペンハーゲンのトロカデロ・バーのガストン・アヌール氏が創りだしたカクテルです。レシピはアクアビット30cc、マラスキーノ15cc、ライムジュース30ccをよくシェイクしてロックグラスに注ぎます。アクアビットベースのカクテルはあまり存在しないのですが、私としては是非オススメしたい物のひとつです。アルコール感が少々強めですが、マラスキーノの甘さをライムがバランスよく引き締めてくれます。大きい氷の入ったロックグラスが北欧の涼しさを強く演出する、品の良いカクテルです。すがすがしい香りとともにお楽しみください。
Old_fashioned  ウィスキーベースからは『オールド・ファッションド』。レシピは、氷を入れたロックグラスに ウィスキー45cc 、角砂糖を1つ、アロマティックビターを1振りし、カットオレンジ、レモンピール、レッドチェリーなどを飾り、マドラーを添えます。ケンタッキー州ルイヴィルのペンデニスクラブで創作されたカクテルです。ケンタッキーダービーのときに、観客たちに人気のあったカクテルといわれています。フルーツを絞ったリ、角砂糖を溶かしたりして、自分好みの味わいを楽しんでいただけるカクテルです。時間をかけて、自分だけのオールド・ファッションドを作り上げてください。

 P.S. この中で書かれているレシピはBAR THE CRANE流。BAR THE CRANEではカクテルブックのレシピどおり作るのではなく、バランスよくアレンジしてBAR THE CRANEの味を出しています。

2006年6月23日 (金)
激突

Tsurumi1_2  調子に乗った運転がたたり、車が大きな音を立ててすべり出しました。危険なときには映像がスローモーションになる、なんてよく聞きますが正にその通りです。大きな画面でスロー再生を見ているかのようでした……。
 自分自身、そんなに慌てていた訳ではなく、いたって冷静だったのをよく覚えています。しかし車は道を乗り越え、海沿いの芝の上を爆走。下手にステアリングを切ると横転してしまいそうなので、軽めのブレーキとステアリングを補正することだけしかできません。そんな中、私の目に飛び込んできたものは、小川にかかったゴッツイ石の橋!
「ちょっと待って! とまってくれ~!」
Tsurumi2_2  そんな思いが届くはずもなく、車はどんどん橋に近づいて行く。
「ドガッ!」……激突。車は橋脚に一度乗り上げましたが、運良くずるずると元に戻ってくれました。「ゴゴゴゴー、ドーン! プシュー……」ラジエーターからものすごい湯気が立ちあがりました……。
 しかし私は、笑いが止まらないほどおかしかったのです。まるでマンガの1シーンを見ているようで、最後の「プシュー」はたまらなく笑えました。
 ふと我に返ると、相棒は助手席で固まったまま、鳩が豆鉄砲をくらったかのように一言も発しません。体が大丈夫なことを確認し、車の壊れ具合を見るため覗き込みましたが……。
「ダメだこりゃ」。バンパーがラジエーターに食い込んだ状態に加えて、前輪が逆八の字に。全く動く状態ではなくなっていました。
Tsurumi3_3  雨の中のクラッシュでしたが、幸いなことにイギリス(スコットランド)というところは親切な方がとても多い。私たちのクラッシュを見るなり、車から飛び降りて駆けつけてくれた方が居たので、私たちは雨にも大して濡れず、買ったばかりのお酒を彼らの車に積み替え、車を捨てたまま、何もなかったかのように彼らと笑い話をしながらホテルへ向かいました……。

 アイレイ島は小さな島だけに、話が広がるのが早いのです。翌日、ボウモア蒸留所のマネージャーを訪ねると、彼に「君のクラッシュした車は、アイレイの景色にベストマッチしているね」と冗談交じりに言われ、照れ笑いしたことを今でもよく覚えています。

2006年6月19日 (月)
アイレイ島で……

Tsurumi1  スコットランド旅行も半ばを過ぎ、少しリラックスしてきた頃、大きな落とし穴にはまってしまいました。オーバンの街から車で1時間ほど走ったところにフェリー乗り場があります。往復の料金は、車込みで1万円ほど。高いのか安いのかなんとも難しいところですが、2泊3日をアイレイ島では予定しているため、車ごとフェリーへ……。
 今更アイレイ島のご説明も要らないと思いますが、確認までに。
Tsurumi2  四方10kmほどの小さな島に、当時は8つの蒸溜所が存在しており、ブレンドスコッチウイスキーの “鍵” とも言える、個性的な香りを放つ独特なシングルモルトを生産する島です。
「シングルモルト好きな人は必ず一度はアイレイモルトにはまる」と言われているほど、味や香りの個性がしっかりと出ているウイスキーばかりが、ここでは生み出されています。また、お馴染みサントリーが所有する蒸溜所「ボウモア」があることでも、この島は有名です。
 一通り、8つの蒸溜所を確認した後、明日は「ボウモア」のマネージャーにも会うので早めにホテルでゆっくりしよう、などと思ったのが間違いの始まりでした……。いつものように、めいっぱい時間を使って見学や酒屋まわりなどをしていれば、問題は起きなかったのではないのか? と後悔しています。
Tsurumi3  そう、その日は小雨が時折降る、なんとも薄暗い1日でした。アイレイ島の中を、レンタカーでぐるぐると行き来している間に、道をほとんど記憶してしまっていました。中心街にあるロッホサイドホテルでレアモルトを10本ほど購入し(1967年蒸留の「ボウモア21Y」や「ラガブリン15年」など、現在では “ウルトラ” がつく位のレアモルトばかりを……!)、浮き足だって自分のホテルへ、鼻歌混じりでご機嫌にドライブ。そのせいか、少々スピードも上がり気味でした……。
 2つのバンクを超えた時に右カーブだ( “走り屋” の方はカーブとは言わず、コーナーと言うと思いますが……)、と私は思い込んでいたのですが、1つ目のバンクを超えるといきなりの右急カーブ! 思わず強めのブレーキ!! 
 道に広がる小砂利にも乗っかり、車は「コー!」という大きな音を立てて操縦不能になっていたのでした……。