溜池ゴローのワールドマップ・イン・フィリピン!
皆さんこんにちは。溜池ゴローでござる!
前回までのワシのコスタリカでのこと、いかがでござったでしょうか? コスタリカでは、びっくりするようなことが多かったのだが、どの出来事も非常に楽しい記憶として、今でもワシの頭の中に残っておるのだよ。
でだ! 今回は、ワシの20代での海外経験第2弾として、フィリピン・マニラでの1ヵ月滞在のことをお話しようと思う。題して、『溜池ゴローのワールドマップ! イン! フィリピーン! ワシはフィリピンが嫌いじゃー!』の巻! ……ん? なんで嫌いかって? ……く、く~~、よくぞ聞いてくれた(思わずすすり泣きだす溜池)! ……え? 誰も聞いてないって? まあいい。これから話すのは、ワシが29歳になる春のことじゃ……。
助監督だったワシは、映画撮影の準備のためフィリピンはマニラのエルミタ地区という場所に出向いた。
その映画は、監督がアメリカ人、プロデューサーと助監督はワシら日本人、各部の助手たちがフィリピン人という具合のスタッフ編成だったので、打ち合わせは、いつも日本語と英語とタガログ語が飛び交っている無国籍チャンコ鍋(そんなモノあるかどうか知らんが)のような状態だった。
そして、当初は、現地での準備期間1ヵ月の後、クランクインの予定だったのだが……。
エゲツない! けどパワフル!
空港に到着し、ゲートを出た瞬間から、マニラはぶっ飛んでいた。
ゲートを出たワシは、迎えのスタッフを探す間もなく、見知らぬ2人組のフィリピン人にいきなり荷物を引っ張られていた。男たちは、ワシのスーツケースとバッグを無理やりタクシーまで運び、チップを貰おうとしているらしい。サービスというより、ほとんど引ったくりである。男たちと荷物の引っ張りあいになったワシは、「ノーサンキューだ! この野郎! ゴーアヘッドだ! シャーこの野郎!」と、なぜかアントニオ猪木のマネで怒鳴っていたのだが、警官らしき人間が近寄ってくると、その男たちは一目散に逃げていったのだった。
……こんなフィリピンに対するワシの最初の印象は、「エゲツない! けどパワフル!」というようなものだった。「フィリピンは侮れんぞい!」とフンドシを(はいてはいなかったが)引き締めなおすワシであった。
到着したその日、これから仕事を共にするフィリピンの映画スタッフたちに紹介された。
彼らは、陽気で親しみやすい雰囲気を持ち、空港で物乞いをしている目のドンヨリと濁ったフィリピン人たちとは、まるで雰囲気が違っていた。
軽い打ち合わせの後、親睦会代わりに皆で飲みに行くこととなった。ワシらは、何台かのタクシーに乗り込み、夜の街へと案内されたのだ。
タクシーを降りると、そこには凄く迫力のある風景が広がっていた。
……なんと言えばよいのだろう。凄い数の人間たちが車道も歩道も関係なしに、ごった返している状態である。喧騒に覆われた街には、解体工事を中断したかのような壊れた建造物が立ち並び、それらの軒下に食べ物や果物や雑貨などがごっちゃりと並べられたり吊るされたりしている店や屋台が連なっている。道路上では、大声を張り上げたり笑ったりしている人間たちでいっぱいなのに、その中を車がゆっくりと通過していく。道路に設置されている街灯は消えて用を成しておらず、店や屋台の軒などに吊るされた物凄い数の裸電球が鋭い光を放っている。その光と焼き物の煙が交わってできる幾筋もの立体的な光線が、行きかう人々のシルエットと相まって、街全体にコントラストの強い印象を作り出している。ワシは、目の前の風景を見ながら、何十回も観た映画『ブレードランナー』の冒頭のシーンを思い出していた。
やがてワシらは、街の一角にある地下への入り口に連れて行かれた。
あんだ~ぐらうんど
「な、なんじゃここは!」
ステージ上では、素っ裸のフィリピン女性がファイヤーダンスを踊っているではないか!
ワシらが案内された地下には、だだっ広い空間のバーがあり、これまた凄い数の人間たちで大賑わいだ。バーといっても、上品なものではまったくなく、薄暗く雑多で不潔そうでタバコの煙がもうもう状態である。
客のほとんどは、日本人や中国人などの観光客らしき男たちと、現地の金持ち風のオジサンたちで、彼らの横には店のホステスさんであるフィリピン女性たちがベッタリとくっついて座っている。どのオッサンも鼻の下を伸ばして幸せそうな笑みを浮かべながらスケベな冗談をかましているのだが、薄暗い中でよく目をこらして見てみると、オッサンの隣に座るホステスさんは、化粧で誤魔化してはいるが皆かなり若い、というか幼いのだ。
当時からロリコン男が嫌いだったワシは、「ん~~マニラは、日本のロリコンオヤジたちの天国かも知れんぞい」と、“ニッポンのお父さんたちの暗部”を見てしまったような気分になったのだよ。それと、フィリピンに到着した日の疲れも相まってか、ちと体調不良を感じ出したのだが、そんなこと口に出す間もなく、ウエイターはワシのコップの中に手づかみで氷をガンガン入れてビールをドバドバ注ぐし、やってきたやり手ババアのような女性は、無理やりホステスさんを大勢連れてくるし、隣に座ったホステスさんは「お父さん死んじゃってお母さん病気で弟と妹の面倒見なきゃいけないし」と、タガログなまりの英語とカタコトの日本語で涙ながらに不幸話を連発するし……。
ワシ、実は昔からホステスさんのいる店とか苦手で、今でもそういった店には自分から行くことはまったくないのだよ。ちなみに、「キャバクラ」なるものも、知り合いに2度ほど連れて行かれたことはあるのだが、何が楽しいのか全然わからん。っていうか、キャバクラ好きな男性たちには申し訳ないが、正直言って、時間の無駄にしか思えん。これはあくまでもワシの独断と偏見なので、腹を立てた方は許しておくれ。スマン……。
不幸話を聞かされたワシは、現地スタッフから「彼女かわいそうだからチップはずんであげて」と言われ、仕方なく財布の中から2千円出した。渡したとたんに彼女は、「ありがとう!」とニッコリ笑って「私これからもがんばるから、あ、向こうのテーブルに行かなきゃ。私、あなた好きよ」と投げキッスをして、「さっきまでの涙はなんだったんだろう?」というワシの疑問のみを残して人ごみの中へと走り去っていった。
……強い! 彼女たちは生活のためなら恥やプライドなどという難しいものはいらないのだ! 観光客のロリコンオヤジたちは、完全に彼女たちの手のひらに乗せられている!
ちなみに、日本に帰る数日前にも、似たような店に連れて行かれたのだが、そのときもワシの隣に座ったホステスさんは「お父さん死んじゃってお母さん病気で弟と妹の面倒見なきゃいけないし」と似たような不幸話を涙ながらにしだしましたとさ。……やはり、マニラはエゲツない! けどパワフルじゃー!
そして、マニラのエゲツなさとパワフルさに初日から疲れてしまったワシは、翌日、飯を食い終えてアパーテルに戻る途中、突然の腹痛とめまいを感じ、道端にバッタリと倒れてしまったのだ! 数人の助監督仲間に部屋まで抱え運ばれると同時に、ワシはユニットバスの浴室に這いずりながらも駆け込んだ!
……が、すでに時は遅かった。
俗に言う「ウエルカムシャワー」がワシを怒濤のごとく襲ったのだよ。もう、上から下からゲーゲージャージャー。いくら吐いても出しても止まらなかった。
人生で経験したことのない激しい吐き気と腹痛と目眩(めまい)で朦朧(もうろう)としているワシは、シャワーから降り注ぐ水の中で、服を脱げもせずに、吐しゃ物と汚物にまみれて見るも無惨な姿をさらしていた。それを見た通訳のフィリピン人の声が遠くから聞こえてきた。
……「コレラかもしれないよ」
……何度も嘔吐しながら、ワシは心の中で叫んでいた。「死にたくねーよー! こんなとこで死んでたまるか! シャーこの野郎(アントニオ猪木ふうに)!」と……。
続くぞ! シャーこの野郎(アントニオ猪木ふうに)!
……もうええちゅうねん!
