2006年5月12日 (金)
第13回 丼屋からの物体X
そもそもはガラスケースの中を見た人を、食べたくさせるのが目的である。
「オレ、親子丼!」「じゃ、オレは天ソバ」
良く出来たロウ細工のサンプル品。テレビCMなら“実物とは異なります”と、注意書きしなきゃならないくらいうまそうに見える。でも、それは店主がキレイ好きか、そうじゃないかで大きく違ってくる。
写真は当然、後者の方で、リアルなロウ細工の上にさらにリアルな汚れが加わり、見る者を食欲不振、または不快にさせるパワーが漲っている。いっそのこと店の前から撤去してしまった方がマシに思えるが、店主はそれに気付くことはないだろう。それは連日連夜、顔を突き合わせてる夫婦のようなもので、お互い歳を取っていることに気付かないのと同じ。人は徐々にくるものに対し、いたって無頓着なのである。
かつて私の通ってた美大の学食は、外に出したガラスケースの中に一瞬、ロウ細工と見間違う本物が入っていた。“まさか”と、思って顔を近づけると丼に微かな湯気が上がっていた。
冬場はその湯気でガラスケースが曇り、夏場はどこから入り込んだのか何匹ものハエが本物の丼や本物のカレーライスの上を飛び回っていた。もう一度言う。そもそもガラスケースの中を見た人を、食べたくさせるのが目的である。
