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第8回 ロック名盤紙ジャケCD化に見る2007年問題

 アナログ・レコードのジャケットに似た質感を求める音楽ファンのニーズに応えて、日本で独自に発展してきた「紙ジャケット」のCD盤。ジャズの名盤に端を発して、最近はロックや'80年代以降のニュー・ウェイブの名盤が、次々と紙ジャケのパッケージでCD再発されるようになった。何でも、中国に紙ジャケットの工場が出来て作りやすくなったらしい。
 で、今月からはデヴィッド・ボウイの旧譜が一気に紙ジャケットで再発される。もちろん、悪いことではない。悪いことではないけれど、紙ジャケで再発される高音質のやや値段設定高めのロック旧譜って、そのニーズのことを考えるとちょっと複雑な気分になるんだよなー。
 つまり、やや高めの国内盤を大人買いできる層。もう新譜は追いかけずに、アーカイヴ的に名盤を集める年代の人々。もうお分かりだと思うけれど、ロックの名盤紙ジャケCDは、古くからのそのアーティストのマニア/ファンの他に、絶対に「青春時代にロックに親しんだ団塊の世代全般」がターゲットに含まれているはずなのだ。
 しかしこの「青春時代にロックに親しんだ」という、団塊の世代に対する公式見解はどこまでが真実なのでしょうね? と昨年のビートルズ来日40周年記念や、彼らが泊まったキャピトル東急ホテルの閉館にあわせて組まれたテレビのドキュメンタリーや新聞記事を見ると考えてしまう。
 何せ、当時の映像を見るとビートルズに熱狂しているのは主に少女たちなのに、その当時のビートルズ・フィーバーについて語るのはもっぱら男性たち。リアルタイムでビートルズが本当に好きだった10代~20代男子って、本当は少数派ではないのだろうか? ビートルズが日本で真に市民権を得たのは、「イエスタデイ」が音楽の教科書に掲載されるようになって以降だと聞く。
 もっと謎なのは、近年のローリング・ストーンズの人気ぶりだ。初期はマッシュルーム・カットで可愛らしかったビートルズに比べ、露骨に不良でセックス・アピールの強いストーンズのファンは日本では更に少なかった。それなのに、今では東京ドームのコンサートの高価なチケットは完売御礼、客席の年齢層を上げているのはもちろん団塊の世代のリスナーたちである。彼らの内の何割が、思春期にストーンズを本当に聞いていた人々なのだろうか?2007mondai
 多くの「団塊の世代」が、時間を経てお墨付きの「名盤」となったロック・アルバムをリマスタリングされ綺麗にパッケージされたCDで後追いして聞き、新聞社や大手出版社が「大人のロック」をテーマに編んだムック本で情報を仕入れ、「昔からローリング・ストーンズのファンだった」という幻想を作り出している……そんな疑いが生じてくる。中には本当に好きだった人もいるだろうけれど、「団塊の世代はロック・ミュージックが好きだ」というのはかならずしも真実ではないだろう。移ろいやすい流行りの音楽に入れあげ、そこにアイデンティティを見出すのは、いつの世代も少数派なのだから。
 そうなってくると、不思議なのは“本当にビートルズが好きだった”はずの、あの大勢の女の子たちは団塊の世代の歴史のどこに消えてしまったんだろうということだ。何故、あの瞬間、何か新しいものを感じてキャーキャー騒いで、時代の渦に飲み込まれるのも厭わなかった勇敢でミーハーな女の子たちから、誰も話を聞こうとしないのか。その証言が真に得られるまでは、団塊の世代のロック史はどこかで書き換えられた表向きのシナリオに過ぎない。
 そしてデヴィッド・ボウイ。'70年代当時、日本でグラム・ロックの王子様に夢中になったのなんて、9割8分女子だから! 紙ジャケ再発以降に「僕たちはみんなあの頃ボウイが好きだった」なんていうおじ様たちが出てきたら、ププーッって吹き出したってかまわないよね?